経営事項審査の際に必要な総合評定値ですが、どのような構成になっているかお分かりでしょうか?点数を上げるには、まずその構成を理解することが大切です。こちらの記事では経営事項審査における総合評定値について、岩手・盛岡の建設業に詳しい行政書士が解説します。
〜目次〜
1.総合評定値(以下、P点)とは
P点はX1、X2、Y、Z 、Wの5つの項目により構成されています。
X1:完成工事高
X2:「自己資本額」と「利払前税引前償却前利益の額」
Y :経営状況分析の結果
Z :技術職員数と元請完成工事高
W :その他社会性項目
ただしただ単純に全て足されるわけではなく、それぞれの項目に対し掛け目があります。
掛け目を加えて数式で表すと下記のようになります。
P点=0.25(X1)+0.15(X2)+0.20(Y)+0.25(Z)+0.15(W)
掛け目に差があるため、特に掛け目の大きい項目の対策をするとP点が大きく伸びることが分かりますね。
では、対策の優先順位は掛け目の大きい順で良いのでしょうか。
建築一式、とび土工、解体の許可を有するA社を事例に、下記図をご参照ください。
X1とZは許可業種ごとの数値が反映されるため、点数を伸ばすためには各許可業種の完成工事高や技術職員を増やす必要があります。
一方、X2、Y、Wは全ての許可業種にまたがっており、対策をすると全許可業種の評価点を伸ばすことができます。
そのため、どの項目を優先的に対策するかは事業所の戦略次第であると言えます。
以下では詳しく各項目について見ていきます。
2.X1(完成工事高)
X1は経営規模を図る指標で、審査項目は「完成工事高」です。
後ほど「元請完成工事高」がでてきますが、X1における工事高は元請完成工事高と下請完成工事高を足したものになります。
完成工事高=元請完成工事高+下請完成工事高
そのためこの項目は元請けか下請けかに関わらず、工事を多く請け負うことで点数を伸ばすことができます。
またこの際、「振替(積上げ)」という制度を利用することができ、一定の許可業種についてはその完成高を他の許可業種に振り替えすることができます。
下記をご覧ください。
◼︎一式工事
工事名 | 含めることができる専門工事 |
土木一式工事 | とび・土工・コンクリート工事 |
石工事 | |
舗装工事 | |
しゅんせつ工事 | |
水道施設工事 | |
鋼構造物工事(※1) | |
解体工事(※1) | |
建築一式工事 | 大工工事 |
左官工事 | |
屋根工事 | |
タイル・れんが・ブロック工事 | |
板金工事 | |
ガラス工事 | |
防水工事 | |
内装仕上工事 | |
熱絶縁工事 | |
建具工事 | |
電気工事(※2) | |
管工事(※2) | |
鋼構造物工事(※2) | |
鉄筋工事(※2) | |
塗装工事(※2) | |
解体工事(※2) |
※1 土木関係工事限り
※2 建築関係工事限り
◼︎専門工事
工事名 | 含めることができる専門工事 |
とび・土工・コンクリート工事 | 石工事 |
タイル・れんが・ブロック工事 | |
解体工事 | |
石工事 | とび・土工・コンクリート工事 |
屋根工事 | 板金工事 |
電気工事 | 電気通信工事 |
消防施設工事 | |
管工事 | 熱絶縁工事 |
水道施設工事 | |
消防施設工事 | |
タイル・れんが・ブロック工事 | とび・土工・コンクリート工事 |
鋼構造物工事 | 鉄筋工事 |
板金工事 | 屋根工事 |
ガラス工事 | 建具工事 |
内装仕上工事 | 建具工事 |
熱絶縁工事 | 管工事 |
電気通信工事 | 電気工事 |
建具工事 | 板金工事 |
ガラス工事 | |
水道施設工事 | 管工事 |
消防施設工事 | 電気工事 |
管工事 |
振替すると振替元の工事種別では経審を受けられなくなりますので注意が必要です。
上記より、自社で「どの業種のどのくらいの金額の工事を請け負いたいか」を明確にし、振替を行うのか行わないのか、戦略的に取り組むことが有効と言えます。
3.X2(自己資本と利益額)
X2は経営規模を図る指標で、審査項目は「自己資本額」と「利払前税引前償却前利益の額」です。
この項目は経営規模の大きな会社に有利に働く傾向が強く、中小企業が行える対策には限りがあります。
そのため対策については記載しませんが、重要な点としては1年間の実績ではなく2年または3年平均での実績となります。
2年平均にするか3年平均にするかは自社で選択することができ、どちらか有利な方を選択しましょう。
4.Y(経営状況分析の結果)
Yは経営状況を図る指標で、審査項目は「経営状況分析の結果」です。
別記事でも記載していますが、8つの指標に基づいて専門の分析機関にて評価されます。
この8つの指標も各指標に係数があり、Y点に与える影響の大きさから優先的に取り組みたいものは純支払利息比率です。
純支払利息比率は「支払利息-受取配当金/売上高」という構成で数値が小さい方が良いため、
支払利息 →少ない方が良い
受取配当金→多い方が良い
売上高 →多い方が良い
ということとなります。
対策として、借入金を返済することで支払利息を減らすことができます。
借入金を返済すると貸借対照表における総資本も減るため、他の項目である「総資本営業利益率」にも良い影響をもたらします。
ただし、資金繰りが苦しくなっては元も子もありませんので注意が必要です。
他の項目についても知りたい方は、お近くの行政書士や当事務所にご相談ください。
8つの指標について、簡単にではありますが下記記事にて解説しています。
5.Z(技術職員数・元請完成工事高)
Zは技術力を図る指標で、審査項目は「技術職員数」と「元請完成工事高」です。
審査項目通り、技術職員の人数を増やすこと、元請工事を多く受注することで点数を伸ばすことができます。
元請工事を増やすことについては普段から取り組まれている事業所様も多いかと思いますので、こちらでは技術職員中心に記載します。
技術職員はその有する資格等によって下記のように評点が振り分けされています。
図から分かるように、より上位の資格を取得すればP点の点数を伸ばすことができます。
仕事をしながら勉強することが非常に大変なことは重々承知です。
そんな中でも従業員に資格を取得してもらうために、報奨金制度等で資格取得に対するモチベーション向上が有効と言えるでしょう。
6.W(社会性等その他の審査項目)
Wは社会性を図る指標で、審査項目は下記です。
建設工事の担い手の育成及び確保に関する取組状況
建設業の営業年数
防災活動への貢献状況
法令遵守の状況
建設業の経理の状況
研究開発の状況
建設機械の保有状況
国または国際標準化機構が定めた規格による認証や登録の状況
項目自体は8つですがその内容はさらに細分化されており長くなるため、別記事を作成しております。
下記をご参照ください。
7.おわりに
本記事では経営事項審査の総合評価点について解説をしました。
ここまでは全て「点数を上げるための」内容でした。
ですが点数は上げれば上げるほど良いかというと、そうでもありません。
P点を取得し名簿への登録申請(指名願)をすると、各自治体による独自の採点基準を加えて審査が行われます。
審査の結果名簿への登録が適当であると判断されたときに「格付」が付与されます。
P点が「客観点」と言われるのに対し、この各自治体による採点基準は「主観点」と呼ばれます。
格付が上位であればあるほど発注金額が大きく、下位であればあるほど金額は小さくなります。
経審は会社規模の評価も含まれるため一般的に上位の格付には大手企業も増えてきます。
そのため
どの自治体で
何の工事種別を
どのくらいの金額で
請け負いたいかを明確にすることがまず重要であると言えます。
目標の格付けに足りなそうであれば加点を取りにいく必要がありますし、足りていれば特段加点を取りに行く必要はありません。
自治体によっては希望する格付を明記したり、明記しないでもメモ等で希望を受付したりする自治体があります。
あくまで希望ですので絶対反映してくれる訳ではありません。
当事務所では経審の書類作成だけでなく、対策のご相談も承っておりますのでぜひお気軽にご相談ください。
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