経営者保証とは何か、経営者(またはこれから経営者になろうとしている方)は知っていなければいけません。では「経営者保証は外せる」という事については知っていますか?こちらの記事では経営者保証を外すための要件について、岩手県内の状況を踏まえながら元地方銀行融資担当の行政書士が解説します。

【目次】
1.経営者保証とは
経営者保証とは、会社が金融機関から融資を受ける際に経営者個人が連帯保証人となることを指します。なぜ銀行が連帯保証人を取るかというと、中小企業・小規模事業者が多い日本において会社と経営者は一心同体と考えられているからです。
経営者個人の資産まで責任を取らせる事で放漫な経営を防止し、融資の回収可能性を高めています。会社が倒産したら個人資産まで奪われるとなると、誰だって日々一生懸命倒産しないよう努めますよね。
資金調達を行う上で一般的な慣行とされてきましたが、経営者にとって大きな負担となることも事実です。長年この経営者保証が慣行として続いてきた結果、銀行が貸出先企業の将来性を見ることなく、融資が保証や担保に頼ったものとなってしまいました。
さらに経営層の高齢化が進行し代替わりの時代に入ったものの、「自分の資産を保証に入れてまで会社を継ぎたくない」と考える後継者候補も増えました。その結果発生したものが、後継者不足です。
これらの状況を打破すべく、2013年に全国銀行協会と日本商工会議所によって「経営者保証に関するガイドライン」が制定され、経営者保証に依存しない方向へと舵が取られました。
現在では一定の要件を満たすことで、経営者保証を解除できる可能性があります。
2.経営者保証解除の要件
経営者保証ガイドラインは法的拘束力こそないものの、融資現場においてはガイドラインに則った対応が浸透してきています。
例えば民間金融機関において経営者保証なしの融資は2014年度12%だったものが、2024年上期は53%まで増えています。

融資も一種の契約であるため、新規融資時に保証に入らない交渉だけでなく、既存融資に対しても保証解除の交渉を行うことができます。
本ガイドラインでは債務者保証をとらないための基準として、下記3つの要素が挙げられています。
1)法人と経営者のお金や資産が明確に分けられていること
小さな会社であれば総務や経理担当者がおらず、代表者が経理を行う場合もあると思います。管理があいまいになり会社のお金をプライベートで使ってしまうと、決算書に代表者貸付金として計上されます。
この場合、会社にお金を返済し貸付金を解消したり、借用書を作成し返済計画を示したりする必要があります。
また資産に関しても建物や車等の利用に関し何も契約書を作成せず、会社に使わせていることもあるかと思います。もし建物や資産を提供するのではあれば使用に関する契約書を作成し、かつ相場の賃料を支払うなどの対応が必要です。
2)財務基盤の強化
しっかりと安定的に収益を確保し、会社のみの資産や収益で返済が可能であることが求められます。判断基準は各金融機関によって異なるものの、下記要件などが求められます。
①直近決算において債務超過でないこと
②2期連続で赤字でないこと
③債務償還年数が10年以内であること
※債務償還年数とは…(有利子負債−経常運転資金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)
特に財務基盤の強化に関しては一朝一夕で改善できるものではなく、日々の営業の積み重ねとなります。定期的に事業環境分析(内部・外部)や事業計画の見直しを行い、全社一丸となって取り組む必要があります。
3)金融機関に対し適時適切な情報開示をしていること
融資を受けていれば毎年決算終了後に決算書を提出することになります。当然ながら粉飾することなくまた遅滞なく提出する必要があります。
時間が取れない経営者の方もいらっしゃるかと思いますが、金融機関に対してはご自身で持参することをおすすめします。このような機会でもないと支店長や融資の役席と会う機会がなかなかないからです。
良いことも悪いことも決算内容について自分の口で説明できれば、数字に強く事業について深く理解している経営者として認識されます。
さらには試算表の作成・開示も必要と言えます。全部を自分で行う必要はなく、手が回らない場合は税理士等に作成をお願いすることも1つの手段です。
資金繰表を作成することは先述の財務基盤の強化にもつながります。
3.経営者保証解除のステップ
経営者保証解除に向けた流れは主に下記の通りです。
1)現状把握と分析
・会社の財務状況や経営状況を客観的に分析します。経済産業省が提供しているローカルベンチマークを使用すると良いでしょう。
・金融機関との取引状況や保証契約の内容を確認します。
2)経営改善計画の策定
・現状の課題と問題点を洗い出し、保証解除要件とのギャップに対し改善計画を策定します。
・専門家のアドバイスを受けながら計画作成を進めることが望ましいです。
3)金融機関との交渉
・経営改善計画を金融機関に説明し保証解除の交渉を行います。
・一方的に自分の意見を主張するのではなく銀行側の立場も考慮し、信頼関係を築きながら粘り強く交渉することが大切です。
これらのステップを踏むことで、経営者保証解除の可能性を高めることができます。
各銀行は経営者保証ガイドラインに対する取り組み状況を公開しており、各行の取り組み姿勢を知ることができます。
【新規融資に占める経営者保証に依存しない融資の割合】
2021年度下期 | 2024年度上期 | |
岩手銀行 | 51.9% | 61.5% |
北日本銀行 | データなし | 55% |
東北銀行 | 30.2% | 38.7% |
4.おわりに
本記事では経営者保証解除の要件について解説しました。
【経営者保証解除の要件】
①法人と個人の資産分離
・会社と経営者個人の資産が明確に分離されていること
・会社のお金を経営者が個人的に使用していないこと
②財務基盤の強化
・会社の財務状況が健全であること
・会社の返済能力が十分にあること
③経営の透明性確保
・会社の財務情報が正確に把握されており、金融機関に適切に開示されていること
昨今では経営者保証を取らない融資が増えてきたため、新規融資時には経営者保証ガイドラインに触れることになるでしょう。
しかし既存融資に対し金融機関側から保証解除の提案をしてくる事は期待できません。金融機関としては保証があった方が安全だからです。
金融機関側からの提案を待つのではなく、上記3要件を理解しこちらから保証解除の交渉を行っていきましょう。
経営者保証の解除は、専門的な知識や経験が必要となる場合があります。ご自身で進めることが難しいと感じたら専門家にご相談ください。
行政書士いのうえ法務事務所では、経営者保証解除に関するご相談を承っております。初回相談は無料ですのでお気軽にお問い合わせください。
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